□「弱者の戦術」?
前項の「小は大に勝る?」でも触れましたが、小売業の場合、企業の規模が必ず
しもすべてにおいて優位という訳ではありません。事業規模が小さい企業でも、
やり方によっては大企業と伍して戦うことができると思っています。
ヤクルト、楽天を優勝に導いた故野村克也監督の書かれた通称「野村ノート」
にも「弱者の戦術」という内容があり、生前野村監督もインタビューの中で「弱い
チームには弱いチームなりの戦い方がある」と言われていたのを懐かしく思い出
します。
私の経験から個人的な意見を言わせていただくと、事業規模の小さい小売業が
存続していくためにとるべき「弱者の戦術」は以下の5項目ではないかと考えて
います。
① 徹底的に顧客を知り、顧客に寄り添う
② 「基本」を磨き上げる
③ 価格以上の価値を提供し続ける
④自分たちの「強み」に徹底的にこだわる
⑤一人一人が「経営者」
一つ目の「徹底的に顧客を知り、顧客に寄り添う」ですが、自店のお客様デー
タはもとより、ロイヤルカスタマーの方の購入傾向や利用頻度等を把握し、その
方々が飽きずに自店を利用して頂ける取り組みを強化してすすめる必要があります。「20:80の法則」の項でお伝えしたように、2割のロイヤルカスタマーの方が店舗
の売り上げの8割を担っていただいているので、絶対に他店に「浮気」されない
ようにしなければなりません。
二つ目の「基本を磨き上げる」については、どの企業も「基本の徹底」について
社内で決めたルールがあると思います。競合店が増えると一時的にお客様は、新し
い店に行ってみたくなります。やはり新しいお店はきれいで快適なことが多いです
から。その上で一定期間が経過して、また自店に帰ってきてくださるかどうかは、
この「基本の徹底」に掛かっています。新しい競合店より挨拶、応対レベルで上
回っているか、商品は買い易いか、品切れはないか等、基本的に事柄がきちんと
出来ていれば、客数を戻すことは可能です。
三つ目の「価格以上の価値を提供し続ける」ことについてですが、お客様は
「安い」だけでは満足されません。提供する商品の鮮度や提供方法、味がお客様
に支持されると「特別安くはないけど、味は抜群」とか、「他の店より少し高か
ったけど、冷蔵庫での日持ちが全然違う」等の評判を頂くことができます。
「安いけどおいしくない」「安いけどすぐ食べないと鮮度落ちが速い」と言わ
るお店より高評価に繋がります。お客様に「やっぱり○○店の方がいい」と言っ
てもらえるように「価格以上の価値がある商品」の提供を意識して行うことが
大切です。
四つ目の「自分たちの強みに徹底的にこだわる」とは、自店でお客様に強く支持
されている商品(例えばお刺身の鮮度や牛肉の品揃え、惣菜の出来立て等)は、他の
店舗を圧倒できるように、更に磨きをかけることが大切です。「群を抜く」商品に
なれば、他の店舗もマネができなくなるからです。そうなるとしめたものです。
「この商品はやっぱり○○店」という評判が立ちます。その評判こそが信頼のバロ
メーターといえます。
五つ目の「一人一人が経営者」ですが、どの企業もどの店舗も同じですが、従業
員全員が同じ方向を向いて努力している企業は強いものです。従業員一人一人が
「私が○○店の代表者」という自覚を持ってお客様に寄り添うことができるお店だ
ったとしたら、お客様もさぞかし居心地の良いお店と言えるでしょう。
いかがですか? これらの「弱者の戦術」には新たなコストは必要ありません。
しかし、働く人たちとの「意思一致」がなければ全く前に進まないでしょう。お金
をかけて何らかの対策を行うと、総じて言い訳が生まれるものです。
「自分たちの手で戦う」ことに腹落ちできればまさに「鬼に金棒」です。昔から
「競合対策=内部対策」と言われる所以です。